「真田丸」「あさが来た」「ちかえもん」-民放ドラマ蹴散らしNHK時代劇“独り勝ち”の意味は

「真田丸」(大河ドラマ)「あさが来た」(朝ドラ)「ちかえもん」(木曜時代劇)-。今、NHKのドラマが面白い。いずれも時代劇で(幕末スタートの「あさが来た」もある意味、時代劇と捉える)、視聴率も好調だ。一方、民放の今クール(1月期)ドラマは、SMAP騒動で逆に注目を集めた草●(=弓へんに剪)剛主演の「スペシャリスト」(テレビ朝日系)が頭ひとつリードし、日本テレビ系3ドラマが10%前後とまずまずの数字だが、そのほかは10%割れとイマイチふるわない。民放地上波の連続ドラマ時代劇が姿を消した今、NHKが時代劇で成功を収めている意味は-。(杉山みどり)


豪華俳優陣が快演、怪演…

 あらためて言うまでもないが、「あさ-」は昨年9月28日のスタート時からほぼ20%以上の高視聴率を維持。また、今年1月10日スタートの「真田丸」も17~20%で推移している。一方、1月14日から8週連続放送の「ちかえもん」は5%前後だが、ドラマに対する評価は高い。

 「あさ-」は朝ドラ初の“まげもの”で幕末のスタート。明治の女傑、広岡浅子をモデルにしており、軽快なストーリー展開に視聴者が引き込まれている。新撰組の土方歳三や福沢諭吉、大隈重信など歴史上の人物を豪華俳優陣が演じ話題にもなった。また、ヒロイン・あさ(波瑠)をとりまくイケメン(夫の新次郎に玉木宏、師の五代友厚にディーン・フジオカなど)らにも、女性視聴者から熱い視線が注がれている。

「真田丸」は、「新選組!」(平成16年の大河ドラマ)でも脚本を手がけた三谷幸喜の作。その「新選組!」で山南敬助を好演した堺雅人が、「真田丸」の主役・真田信繁を演じる。おちゃらけたイメージの強い大泉洋が、真面目で堅物の兄・信幸を好演。父の昌幸役の草刈正雄のひょうひょうとした演技にも注目が集まる。なかでも、第二話で、平岳大が演じた武田勝頼の散り際は「震えるほど感動した」などと絶賛された。


これまでの時代劇とは違う-大胆な創作「ちかえもん」

 「ちかえもん」は江戸時代を舞台に、近松門左衛門の「曽根崎心中」誕生秘話を大胆に創作。脚本は「ちりとてちん」(19年下半期の朝ドラ)の藤本有紀。まず、松尾スズキ演じる冴えない中年スランプ作家の近松がいい。「情けなくて面白い」と評判だ。そして、情に厚く純情で、曲がったことが大嫌いな直情型男・万吉役の青木崇高の怪演が光る。富司純子、岸部一徳、北村有起哉、山崎銀之丞などの演技派がそろい、セリフが「ちりとてちん」の落語の節回しのようで小気味よく、珠玉のエンタメ時代劇となった。

 いずれも歴史上の人物を描きながら、随所に現代的なユーモアを加え、視聴者を楽しませている。「ちかえもん」に関して、NHKの正籬聡(まさがき・さとる)大阪放送局長も「これまでの時代劇とは全く違う。型にはまらない新しい試みで、ナイスチャレンジだと評価している」と話していた。


民放は? SMAP騒動“余波”で好調のテレ朝ドラマ以外は…

 一方、民放各局のドラマはというと…。

 視聴率では、「スペシャリスト」(テレビ朝日系)が頭ひとつリード。SMAP解散騒動直後の初回放送(1月14日)が69分のスペシャル版だったことも大きく、初回17.1%をマークした。ただ、その後はじりじりと下降気味だ。

 また、日テレ系の「ヒガンバナ」「怪盗 山猫」「火村英生の推理」は、いずれもミステリー系。それぞれ10%前後でまずまずといったところ。「怪盗-」では、ジャニーズの亀梨和也演じる山猫が、“超音痴の水虫持ち”という設定で笑える。

 月9「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(フジテレビ系)は純愛ストーリーで、切なさは募るものの笑える要素はない。また、「わたしを離さないで」(TBS系)は、綾瀬はるか、三浦春馬、水川あさみと豪華なキャスティングだが、テーマが重過ぎて「見るのがしんどい」という声が多く、視聴率も7%前後とふるわない。


時代劇的要素が最近、視聴者に好まれるドラマのエッセンス

 ドラマを学問として研究している中央大学文学部の宇佐美毅教授は、ドラマがヒットする理由について、「その時代の社会背景が大きい」と前置きした上で、「最近は、現代ドラマでありながらも、勧善懲悪という時代劇の要素を持ち、痛快な作風が好まれる傾向があると考えています」と話す。ということは、「時代劇的要素」は今の視聴者に好まれるドラマのエッセンスだといえるだろう。

昭和44年にスタートした「水戸黄門」が平成23年12月で終了し、民放地上波から連続ドラマとしての時代劇は姿を消した。若年層視聴者を取り込めず、視聴率低迷のためとされている。だが、時代劇そのものがもはや受け入れられないのか、というとそうではないだろう。“新しく面白い時代劇”はむしろ視聴者の目には新鮮なのではないか。NHKの“独り勝ち”が今後のドラマの在り方のヒントを指し示している。